THE YOMIURI AMERICA ・ 2002年9月13日(金)
大阪から激励の歌 消防士さん「ありがとう」
テロ一周年前日の10日、「♪サンキュー・ファイヤーファイターズ」という歌声がニューヨーク市内29丁目にある消防署「エンジン16/ラダ−7」に響いた。声を響かせたのは、大阪で活動する劇団「ミュージカル☆SHOW-COMPANY」(阪上めいこ代表)の団員12人。14才から28才のメンバーが贈る「ありがとう」というストレートな気持ちは、消防士達の心を打った。
この劇団は、同市の消防署を舞台に、仲間の殉職に責任を感じ、その悲しみに苦しむ消防士がやがて立ち直るという物語のミュージカル作品「ファイヤーマンの祈り」を日本で公演している。初演は1995年、阪神淡路大震災が起きた年で、被災地の兵庫県尼崎市で公演された。そして昨年、再演の準備をしているときに、米同時多発テロが発生。劇団員のショックは大きかったという。
ニューヨーク行きの話が持ち上がったのは今年1月、同市在住のミュージシャンで同劇団のボイストレーナーでもあるジェームス&ビバリー・スミス夫妻が日本を訪れた時だった。「ニューヨークの消防士に歌って聞かせてほしい」と言われ、オリジナル・ナンバー「サンキュー・ファイヤーファイターズ」を英訳して歌うことになった。この歌を作詞・作曲した山本暎詞さんは、「曲を作ったのは阪神大震災の前だから、ここで歌うとは思っていなかった。でも消防士に助けられた日本人もいると知って、ありがとうを伝えたかった」という。主役の消防士を演じる阪上さんは、「亡くなった消防士と一緒に歌う気持ちで、生き残った消防士達に『私達の分も生きてほしい』というメッセージを送りたい」と話す。
エンジン16/ラダ−7に待機中だった消防士約10人を前に、劇団員は明るい表情で歌い上げ、心のそこから沸き上がる素直な歌詞とメロディーに消防士達はじっと聴きいっていた。同署は昨年のテロ救援に向かった「ラダ−7」の6人全員を失った。出動を記録した当日の黒板は、今もそのまま署内の壁に掲げて保存されている。ラダ−7のキャプテン・マンリ−さんは、「前進したい気持ちと悲しみが入り交じっている。仲間はもう、戻ってこないのだから。一周年行事が行われている今、また当時のことを思い出すが、こうして我々のために日本から来て歌ってくれたことに感謝する」と語り、目頭を熱くしていた。消防士達は最後に、劇団員ひとりひとりと固い握手を交わした。
(10日、撮影・石川論)